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 近年まで途絶えていた杢目銅の技法を再現

千貝弘さんは、杢目銅(もくめがね)という江戸時代に誕生した金属加工の技法を現代に伝える職人である。杢目銅というのは、江戸時代初期、秋田佐竹藩のお抱え鍔(つば)師だった阿弥伝兵衛が考案したとされる、異なった種類の金属を交互に重ねて模様を彫り出す技法である。一時その技法は途絶えていたが、千貝さんをはじめとする職人たちによって現代に甦り、秋田の伝統工芸として継承されている。杢目銅に対する取り組みが認められ、千貝さんは2006年度現代の名工に選ばれた。秋田市にある千貝さんの工房を訪ねてお話をお聞きした。

 
 杢目銅の地金を作る

杢目銅の製造は、その素材となる地金づくりから始まる。職人によってやり方は違うが、千貝さんの場合は、12枚の銀板の間に、黒味銅と普通の銅の板を交互に11枚重ねて地金を作っている。重ねた23枚の金属を枠に入れて、炉の中で加熱融着されるのであるが、この地金づくりの製法を完成させるまでが大変だったという。一番難しかったのは、銀を溶かして異なる金属に圧着させる際の融点の見極めだった。炉から出すのが早すぎても遅すぎてもうまく着かない。着いたと思って作業しているうちに剥離してしまうこともあった。試行錯誤を繰り返し、ようやく満足のいく地金ができるようになったのは、杢目銅の再現に取り組んで10年目のことだった。

 
 
3種類の金属を重ねて枠に入れる         フイゴ炉に入れ高温で加熱  
 
 
 2種類の銅を使い分ける

融着された地金は、次に木槌を使って薄く伸ばしていく。これは根気のいる作業である。機械でプレスするより手で伸ばしたほうが模様が均一にならず、作品に面白みが出てくるという。
千貝さんの杢目銅には、一般的な銅のほかに黒味銅が使われている。黒味銅は江戸時代以前から多くの工芸品に使われている銅で、銅100に対して3の割合の小豆白(砒素)が含まれている。この2種類の銅の微妙な色合いの違いが、実際に作品になった時に、深い奥行と変化を与えているのである。

 
 
完成した地金                  地金を薄く引き伸ばす  
 
 地金から杢目銅作品ができるまで

引き伸ばされた地金は、折り曲げたり、彫ったり、叩いたりして、多色層の木目や雲のような独特な模様を描き出していく。その風合いは、金属でありながら温かみを感じさせる。深く彫っていくほどその模様は複雑になり、叩き方によって模様は変化する。どのような模様にしたいかあらかじめ計算して彫っていくが、思いもよらない模様が生まれることもあり、それが杢目銅作りの魅力にもなっているという。

 

 
渦巻きの模様はドリルで穴を削ったもの     拡大したもの  
 
 銅の特性をいかす

杢目銅には銅の特性が十分に生かされている。それは、なますと元の柔らかい材料に戻るという特性である。柔らかくなれば加工しやすくなるし、叩くと金属の分子同士が結合してまた固くなる。そしてまた火に入れると柔らかくなる。熱の伝導性が高いのでなましやすいのだという。完成した杢目銅は、最後に緑青と硫酸銅で煮る(煮色仕上)。この工程によってに、銅の錆を進行させるのである。錆によって、その金属の持つ一番ふさわしい色に発色させていくのである。杢目銅の場合は、緑青が出る直前の状態で止めているという。また、一度煮ると、それ以上は錆によって変色することはない。これも銅の特性を生かした昔からの技術なのだという。

  緑青と硫酸銅で煮ながら発色の様子を確認する  
 
 
少し大きな作品だと完成まで3ヶ月かかる     作品を作る工具  
     
 
杢目銅のアクセサリー             2種類の銅の発色の違いが鮮やか   
 

千貝さんは杢目銅づくりの製法を自分だけの技法とするのではなく、広く公開している。公開することで、杢目銅を多くの人の手で伝承させていくことを選んだからだ。現在は工房を毎週開放して杢目銅などの金属工芸の普及に努めている。すでに何人かの後継者も育っているのだと話してくれた。

取材協力
千貝工芸 秋田市新屋豊町9-32
 

 
 

 

 
江戸時代後期に作られた杢目銅の鍔 表「鷹」 裏「雀」 
 

 

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