TOP特集新製品・新技術歴史を見たマテリアル【新】こんなところにアルミ・銅
News Scope新・やさしい技術Zipang
 
前のページへ 次のページ
 
 
 
 
 東京で唯一人となった銅おろし金職人

勅使川原隆さんは、東京で唯一人となった銅おろし金職人である。勅使川原さんのほかにも銅おろし金を作る職人はいるが、最初から最後まで一人で作っているのは勅使川原さんだけだという。東京葛飾区小菅にある勅使川原さんの作業場を訪ねた。表に看板は出ていなかったが、規則正しく金属を打つ音が外まで響いていて、すぐにここが勅使川原さんの作業場であることがわかった。
勅使川原さんは今年で75歳。先代の父親のもとで修行を始めたのが18歳だったというから、もう60年近く銅おろしを作り続けていることになる。

 
 銅おろし金の製造

勅使川原さんは、材料の銅板を羽子板のような形に型抜きされた状態で仕入れている。昔は断裁から自分でやっていたそうだが、年を取るとともにきつくなったという。実際に手に持たせていただいて、そのずしりとした重さに驚く。よく見るおろし金とは大違いだ。厚さも2ミリはあるだろか。この厚さの銅板を型抜きするのは確かにきつい作業だと思う。
銅おろし金づくりの手順としては、まず銅板に目立てをするときの目印となるスジを入れていく。表が大きな目の大根おろし用、裏面が細かい目の生姜やわさびなどの薬味おろし用になる。
スジを入れ終わると、銅を錆びさせないために錫を焼き付けていく。メッキとは違い、銅板を熱してその上で純錫の棒を溶かし、綿で塗り延ばしていくのである。溶けやすい錫(融点232度)と熱が伝わりやすい銅の特徴を生かした、昔からの伝統的な技法だという。

 
スジをつけた銅板(左) 錫を焼き付けた状態(右)
 

準備が終わると、いよいよ一目一目、鏨(たがね)を金づちで叩いて目を立てていく作業だ。銅おろし金づくりで一番重要な工程である。目を高く立たせるためには銅板を深く彫っていかなければならない。勅使川原さんは、表面の1つの目を立てるのに4回叩いている。焼きなましをした薄い銅板を使えば加工はしやすいが、それだとこれほどの鋭く高さのある目は立たないという。鋭い目が立てられるよう、鏨の切れ味が落ちるとすぐに新しいものに取り替えている。100本近く持っているという鏨はすべて自らの手で作ったものである。まず片道の目立てをし、全体に打ち終わると、次は銅板の向きを変えて逆側から目を立てていく。

 
 

一目一目立てていく              100本近くある鏨はすべて自分で作る  

 
 
 勅使川原さんの銅おろし金が選ばれる理由

この銅おろし金の鋭く立った目は、切れ味が良く、食材の繊維だけを切り、組織を必要以上に壊さない。だから、噛んだときにシャキっとした大根おろしができるのだ。また、勅使川原さんの銅おろし金は規則的でありながら互い違いに立てられ、両方向を向いている。これによって、大根やわさびをなどを上下させる毎にかかりやすくし、余計な力を入れなくても楽におろせるのだという。

 
 
高く鋭く立てられた目             完成したおろし金  
 
 30年前の銅おろし金を修理する

勅使川原さんの銅おろし金は、日本全国の板前さんをはじめ、家庭の主婦にも愛用者が多い。銅おろし金の修理も勅使川原さんの仕事である。先代の父親が目立てをした銅おろし金が持ち込まれることもあり、それを見て自分もまだまだ頑張らなければいけないと思うことがあるという。銅おろし金の修理といっても、すでに目の鋭さは失われているものも多く、目を立て直すしかないという。つまり、一度目を全部潰して平らにするのだ。そのあとで、かつて目だったところの間に新しい目を立てていく。修理の方が手間がかかるというが、長く使い続けたいというお客さんの希望には極力こたえているという。「硬く厚い銅板を使っていなければ目を立て直すことはできません」と勅使川原さんは教えてくれた。

 

修理のために持ち込まれたおろし金
 
 

勅使川原さんは、銅おろし金を作るすべての作業をひとりで行うので、1日にできるのは多くても5個くらいである。年間に1000個もできればいいほうだという。だからいつも注文に追われている。取材中にも注文の電話が入ってきて、納品が遅れていることを謝っていた。残念ながら勅使川原さんに後継者はいないが、銅おろし金づくりは日本各地の職人によってこれからも継承されていくだろうと話してくれた。

取材協力
江戸葛飾 てし川原  葛飾区小菅1-28-8
 

 
 
 
 
 

 

前のページへ | 次のページ
 
copyright (C) kobelco all rights reserved.