特集

アルミニウムと温泉

湯の花を製造する湯の花小屋の構造

別府の湯の花は、噴気の多い場所を選んで建てられたわら葺小屋(湯の花小屋)でつくられる。小屋の中は噴気が均等に小屋内に引き込まれるよう栗石で石畳みを作り、この地方特有の鉄分やアルミニウムを豊富に含んだ青粘土を敷き詰める。地下の噴気ガス(硫化ガス)の蒸気が栗石のすき間から青粘土の中に入り、ガス中の成分と青粘土の成分が化学反応を起こして霜柱のような結晶となるのである。この結晶が湯の花で、1日約1ミリずつ成長し、30~60日かけて採取、精製、乾燥して製品化されている。全国の温泉地で土産物として売られている湯の花は多くあるが、そのほとんどは温泉水に溶存している硫化水素が酸化して沈殿した、湯垢と言われる硫黄華を採取したものである。別府の湯の花づくりとはまったく違っている。 *資料提供 みょうばん湯の里  

明礬製造とアルミニウム

江戸時代に湯の花からどのように明礬を製造していたかについては、製法が秘伝とされ門外不出となっていたため、長い間謎であった。この明礬づくりの再現に挑戦した人がいた。当時別府大短期大学教授だった恒松栖さんである。恒松さんは、貝原益軒の「豊国紀行」に「灰汁(あく)」という文字を見つけ、さらに、「鶴見七湯迺記(しちとうのき)」という書物に、職人たちが黒いものを燃やしている挿画を見つける。明礬づくりには何かを燃やした灰汁が重要ではないかと考えた恒松さんは、やがて九州一体に自生するハイノキという植物から灰汁を取っていたことを突き止める。ハイノキはその名のとおり燃やしても炭になりにくく、灰になってしまう植物であるが、この植物には大量のアルミニウム成分が含まれていた。 多くの植物はアルミニウムを体内に集積することはないが、酸性度の強い土壌に生息する植物には、葉に多くのアルミニウムを集積する植物がある。ハイノキはその代表的なもので、18世紀のヨーロッパではこのハイノキ属の植物の葉と樹皮の灰を明礬の代わりとして染物に使っていたらしい。ちなみに明礬が染色に使われるのは、アルミニウムイオンが植物染料に含まれる化合物と反応して鮮やかに発色するためである。

明礬の結晶が完成


元別府大短期大学部教授の
恒松栖さん
  アルミニウム成分を多く含むハイノキの灰汁が明礬の製造に欠かせない役割を果たしていることを突き止めた恒松さんは、これを湯の花の溶液と混ぜ合わせることにした。もちろんそれだけで明礬の結晶ができるわけではない。何度も試行錯誤を繰り返し、湯の花の溶液とハイノキの灰汁の濃度や最適な調合の割合、さらに混ぜ合わせる温度などの条件を微妙に調節(加熱と冷却)することで、明礬の結晶を造り出すことに成功したのである。研究を始めてから3年の月日が経っていた。 アルミニウムはハイノキというかたちで別府という温泉地での明礬づくりに重要な役割を担っていたのである。実際に恒松さんがつくった明礬の結晶を見せていただいた。4本の木綿糸には明礬の結晶がびっしりと生成されていた。


乾燥させたハイノキ
 
鶴見七湯迺記
大分県立歴史博物館蔵
 
完成した明礬の結晶
 
出展:国指定重要無形民俗文化財「湯の花とハイノキで明礬をつくる」著者恒松栖
今回の特集では温泉ということを切り口として、あまり知られていないアルミニウムの働きについて紹介してきた。取材に伺った直後に熊本地震が発生し、大分地方も大きな被害を受けた。一日も早い復興をお祈りする。
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