庶民の暮らしを支えた七輪

昭和20 〜30年代。食事時になると軒先では一斉に七輪が使われ、魚が焼けるおいしそうな匂いがあたりにたちこめた。団扇でパタパタと扇ぎ、炭火をおこす。庭先に細く白いけむりが立ち昇る。そこでは、時間がゆっくりと流れていた。
戦後の混乱期から高度成長期以前まで、七輪は庶民の生活に欠かせないものだった。都市部の住宅では、かまどや囲炉裏をつくる広い土間がなく、七輪は焼き物、炊飯、煮炊き物などの調理器具として幅広い用途に使われていた。

 

炭代わずか「 7 厘」の効率的な燃焼器具

一般的に、七輪は珪藻土という天然の柔らかい岩からできている。珪藻土の組成は空気の孔がたくさん詰まったスポンジ状のため、断熱性、保温性にすぐれ、少しの木炭でも効率よく燃焼させることができる。そのため七輪の名前の由来は諸説あるが、炭代がわずか「7厘(厘は1/10銭)」ですんだことが一説として考えられている。
七輪には二種類ある。 現在、量販向けに主流となっているのは珪藻土を砕いて練り、型を抜いてつくられる「練物」と呼ばれるもの。一方「切り出し七輪」には、江戸時代初期から伝わる伝統的な切り出し製法が使われている。切り出した天然珪藻土の塊を七輪の形に削り、焼き上げる。職人の手でひとつひとつ丁寧につくられるため、価格は多少高くなるが、実用性と美しさを兼ね備えた名品として、切り出し七輪は昔から支持され続けている。

 

七輪とともにゆったりとした時間を楽しむ

昭和30年代以降、ガスコンロが普及するとともに、火おこしに時間のかかる七輪は人々の生活からしだいにその姿を消していった。ところが最近では、味へのこだわりやスローフード志向から新たに七輪を使おうという傾向が見られる。
七輪で焼いた食材は、表面はパリッと、中はふっくらと焼き上がる。炭火から出る遠赤外線が食材の表面をすばやく均一に焼き上げて旨みを閉じ込めるからだ。炭火の強い火力で調理した食材には、今も昔も変わらない、格別なおいしさが生まれる。
現在は、大きさも形もさまざまなタイプの七輪が販売されている。卓上で使える小さな七輪は、現代の生活にも取り入れやすいだろう。ぐんと冷えこみ始めたこの頃、七輪の炭火を囲んで懐かしい味、懐かしい時間を思い出してみるのもいいかもしれない。スイッチひとつで点火する便利さはないが、ゆっくりと流れる時間はかえって贅沢に感じられるだろう。

 
 
 
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