だれしも異常と感じる今年の夏。街中を救急車が通りすぎれば、思わず熱中症患者が搬送されたのかと考えてしまう。身も心も溶けそうな熱気に夏の名残を惜しむ余裕はない。まるで春を待ち望むように、ことさら今年は秋が恋しい。
秋といえば、涼風をうけながら、眺める月のなんと美しいこと。澄みきった夜空に、さえざえと青白い光を放つ。心がしんと鎮まる静かな光は、流れる雲のまにまに表情を変える。ひときわ輝きをます月に、ためいきを漏らすひとときは秋の贅沢といえよう。
 
地球上の生物に影響する月の力
月は地球の周りを公転する唯一の衛星だ。約1か月かけて地球の回りを公転し、太陽に照らされる部分が変化することで、地球上では満ちたり欠けたりしてみえる。
月の引力によって、干潮、満潮が起こることは良く知られているが、地球上のあらゆる生物の生体リズムにも影響を与えている。とくに海洋生物はその影響が大きく、例えばアオウミガメは満月の日に産卵し、サンゴは満月か新月の日に産卵する。アカテガニは満潮時に体を震わし幼生(赤ちゃん)を放出し、ウニは新月時に痩せ、満月時に太り、満月の夜に産卵する。生物たちはどうやって月の周期を正確に感じとるのか不思議であるが、見計らったようにいっせいに産卵する様子をみると、生物の営みは月が見守っているような気がしてくる。
人間においても、女性の身体は月の周期の影響を受けているといわれ、また満月の夜は交通事故が増えるとも噂されている。人間の身体は50〜70%を水分が占めており、海水が月の引力の影響を受けるように、人間もなんらかの影響を受けているのかもしれない。
 
見上げてみれば、月がくれる豊かな時間
人と関わりの深い月は、中国や日本において古くから月を眺める「お月見」が行われてきた。旧暦の8月15日に行われ、「中秋の名月」や「十五夜」などと呼ばれている。
そのルーツは定かではないが、中国では月見の日にサトイモを食べることから、もともとはサトイモの収穫祭であったのではないかという説がある。日本には奈良〜平安時代の頃に伝わったとされる。
お月見には、きまってお団子とススキが供えられるが、お団子はこれからの収穫を祈って米の団子を供えたのが由来と考えられている。一方ススキは、切り口が鋭いことから魔除けの力があるとされ、お月見で供えたススキを家の軒先につるしておくと病気をしないという言い伝えもある。

平安時代のお月見は、「観月宴」や「月の宴」と呼ばれ、貴族らは月を見ながら即興で和歌を詠みあった。貴族らは直接月を見るのではなく、酒の杯に映った月や舟遊びで水面に揺れる月をみて楽しんだというからなんとも粋だ。

和歌を詠むまではいかなくとも、夜空に輝く月をみていると、自然と豊かな心もちになってくる。アーティストを刺激するのか、現代には月をテーマとした曲がなんと多いことか。なかには心に染みわたるような名曲も多い。ドビュッシーの「月の光」やフランク・シナトラの「Fly Me to the Moon」、アンディ・ウィリアムスの「Moon River」などなど。名曲に耳を傾けながら豊かな時間を過ごすのもいいかもしれない。月に心奪われる秋のひととき。今年の中秋の名月は9月22日である。
 
 
 
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