夏を告げる鳥
「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」は、徳川家康の性格を表現した句であるが、ホトトギスは待ち遠しい夏の到来を告げる渡り鳥である。
そろそろ今の時期、「テッペンカケタカ」や「東京特許許可局」などに聞こえる独特の鳴き声を、聞いた人もいるかもしれない。ホトトギスはこの時期、早朝からよく鳴き、夜に鳴くこともある。
他の夏鳥は渡来する時期がずれることがよくあるが、ホトトギスは毎年同じ時期にやってくることから、ホトトギスの渡来は田植えを始める合図とされていた。そして季節の区切りを示すことから「時を告げる」→「時鳥」という当て字が使われたりもする。
 
たくさんの名前と物語を持つ鳥
「時鳥」の他にもホトトギスはその表記が実に多彩な鳥である。「不如帰」、「杜鵑」、「子規」、「郭公」、「杜魂」、「蜀鳥」、「杜宇」、「蜀魂」などの漢字で記される他、「あやめ鳥」、「いもせ鳥」、「うない鳥」、「さなえ鳥」、「夕かげ鳥」など、たくさんの異名も持つ。
そして多くの文学作品にも登場する。日本の最古の歌集である万葉集には、なんと150首以上にも詠まれている。おそらく野鳥のなかでも最も多く詠まれた鳥であろう。鳴き声が聞こえ始める時期に咲く橘や卯の花と合わせて読まれることが多く、他の鳥を圧倒する回数で読まれている。
伝説、迷信も非常に多数存在する。例えば「ホトトギスの鳴き声を真似ると厠で血を吐く」などの不吉な内容のものが多いのが特徴的で、これは一つに夜でも鳴く鳥というところから冥土に通う鳥とされていた事。ホトトギスの口の中が赤いため、「鳴いて血を吐くホトトギス」と言われるように血を吐くほど鳴き続けると表現されている事。また中国の故事に由来し、蜀の望帝が退位後、復位しようとしたが叶わず、死んでホトトギスと化し、「不如帰(帰るにしかず)」と鳴いているという伝説に基づき、暗いイメージがついたと考えられている。
また、血を吐くほど鳴くという表現から明治の俳壇の重鎮、正岡子規は、まさにホトトギスを意味する「子規」を名に用いている。彼は若くして結核におかされたが、激しく鳴くホトトギスを喀血の症状になぞらえて「子規」と名乗った。彼は俳句雑誌「ホトトギス」を指導し、ホトトギス派文学の創始者でもある。
 
かしこく、したたかな鳥
激しく鳴く姿と、独特の声が人間のイマジネーションを刺激するのだろうか。文学の世界でホトトギスは実に多彩に、ドラマチックに登場する。しかし人間の解釈とはうらはらに、実際のホトトギスはどんな鳥なのだろうか。わかっているのは非常にしたたかな鳥ということである。
ホトトギスの習性としてよく知られているのが托卵である。ホトトギスはウグイスなどの巣に卵を産み付け、ウグイスに我が子を育てさせる。驚くのがホトトギスのヒナで、生まれて直ぐにヒナは巣の中のウグイスの卵を背中にのせ巣から放り出すという荒業をやってのける。結果、悲しいかなウグイスは自分の体の2倍の大きさに成長するホトトギスを育て上げることになる。親子そろって非常に狡賢い鳥なのである。
こんなに賢いホトトギスのことである、もしかしたらこの時期、人間が熱い視線をホトトギスに注いでいることを知っているかもしれない。知ってか知らずか、今日も人々の心を揺さぶる声でホトトギスは激しく鳴き続けている。
 
 
 
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