シルクロードを通って日本へ
気象や動植物の変化で季節を表す七十二侯で、5月下旬は「紅花栄(こうかさかう)」の時期にあたる。「紅花」とは今で言う「べにばな」のことである。紅花はアザミに似た黄色の花で、花びらは徐々に赤い色に変化していく。初夏を彩る花は数多くあるが、なかでも紅花は鮮やかな色彩が特徴的である。原産地は、アフリカのエチオピアといわれ、これがエジプト、地中海からシルクロードを通って中国に渡り、すでに6世紀ごろには日本に伝えられていたようだ。
ところで紅花は、見た目の印象が強いからか、詩歌や文学の題材としてしばしば取り上げられてきた。有名な紫式部の「源氏物語」にもその例がある。源氏物語の中に、末摘花(すえつむはな)という女性が登場する。じつは末摘花とは紅花の古名である。主人公の光源氏は、この女性の「鼻が赤い」ことと紅花の「花が赤い」ことをかけて、このあだ名をつけた。言葉は風流だが、意味するところは少し皮肉まじりである。数多くの美女が登場することで有名な源氏物語だが、その中で末摘花は、不美人でありながら生涯源氏とかかわり続けた女性として、独特の存在感で描かれている。
 
金にもたとえられる貴重品

日本の紅花の産地として有名なのは山形。山形では、6月後半から7月にかけて紅花の花が咲き、初夏の風物詩となっている。かつて江戸時代には、最上川流域は全国一の生産量(5割以上を占める)を誇り、「最上紅花」の名前で広く知られていた。
紅花から染料を作るには、まず花をすりつぶし、固く絞って乾燥させ、「紅餅」と呼ばれるかたまりを作る。生花に比べ約10分の1と軽くなった紅餅は、船で最上川を下り、さらに日本海を西に向かい、京都に運ばれた。最上紅花は鮮やかな紅色で京都の人々を魅了し、染物や口紅などの原料として人気を博した。
とくに口紅や頬紅に使われる紅(べに)は、ほんのわずかな量しか採れないため、江戸時代には「紅一匁(もんめ)金一匁」と言われるほど貴重なものだった。当然のことながら、このような紅は裕福な人々だけが使えるもので、紅花を摘む農家の娘たちとはまったく無縁のものだったそうだ。

 
今も暮らしの中に根づく紅花の文化
紅花の染料としての使用量は最近は少ないが、かわって健康食品として注目されるようになった。紅花の種から採れるサフラワー油は、体内で作ることができない必須脂肪酸のリノール酸を多く含んでいる。リノール酸は、コレステロールを減らしたり、高血圧予防に効果があると言われる健康食品だ。また乾燥させた花びらは、漢方で冷え性や肩こりなど、血行障害の治療に用いられるなど、さまざまな形で暮らしに役立てられている。
紅花の産地、山形市では毎年8月、花笠祭りが催される。踊り手たちは紅花を模した赤い花を付けた傘を持ち、通りを踊り歩く。紅花の花言葉は「夢中、熱狂、情熱的」。情熱的な紅花の色は、東北の短い夏を鮮やかに演出する。
 
 
 
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