株式会社神戸製鋼所アルミ・銅製品販売網機関紙

 
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作品にアルミニウムを採用したセシル・バルモンド氏。その発想の源はどんなところから生まれているのだろうか。
また構造デザイナーとして、アルミニウムの魅力、その可能性をどのように捉えているのだろうか。来日したセシル・バルモンド氏にインタビューに応じていただいた。

今回の展覧会のコンセプトを教えてください。

展覧会のタイトルは「エレメント」。自然の要素です。自然を見ると何かの着想を得ることがあります。そこでバナー展示では、イメージをスケッチして抽象化することを表現しています。バナーの次に展開する展示はフラクタルの世界です。
「フラクタル」という概念は建築家でも深い意味を理解している人は少ないかもしれません。フラクタルは「自己相似形をもつ断片化されたもの」という意で、私にとってフラクタルとは組織と同じ意味です。たとえば人間の身体も細分化していくと、DNAのらせん構造となります。
私は自然から着想を得た組織の姿をスケッチして、フラクタルとして表現をしています。自然から着想を得た断片を、私なりの表現で展開しているのです。展覧会の作品は川や山など、私の解釈する自然の世界を、私なりに表現しています。


作品にアルミニウムを用いた理由は何ですか。

アルミニウムは私が好きな材料です。アルミニウムはものを反射する性質を持っています。たとえばアルミニウムの前に白いシャツ、赤いシャツ、黒いシャツの人が通れば、反射して白や赤や黒に色が変わります。
H_edgeのアルミプレートの形状は、たとえば四角にも、漢字の形にもなり得ます。H型は、チェーンをつかって力をかけるために効果的な最小限の形状となっています。

 
アルミニウムが反射して、美しくきらめく。


建築物へは、アルミニウムをどのように使用していますか。

アルミニウムは鉄に比べ柔らかく、そして経済的で、私は非常に興味があります。
実験的な試みとして、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2001では、構造材、外装材すべてにアルミニウムを使用しました。このパヴィリオンでは毎年異なる材料を使って違う表現を試みています。私は英国や欧州の人々に、アルミニウムがどんなにすばらしい材料か知ってもらうためにこの建築物をつくりました。
とくに外装材は特徴的で、1mm厚のアルミ板を構造体の上に鋲打ちをして仕上げました。まるで古い家具のような印象です。私は古典的な方法を現代の技術を使って表現したいと考えています。
その翌年のパヴィリオンでは、建築家に伊東豊雄氏が起用され、構造材にはスティール、外装材にはアルミニウムとガラスを使用しました。


サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2002、ロンドン
協働:伊東豊雄
提供:東京オペラシティアートギャラリー




アルミ建築構造材の利用拡大には何が必要だと思いますか。

既存の高いビル等の鋼製構造材の代替として、性質の異なるアルミニウムをそのまま使うのは難しいでしょう。必要なのは新たな考え方です。アルミニウムの使用を前提としてフレーム構造から考える必要があります。建築をどのような形、構造にするか考える際は、まず材料を基本として出発するべきなのです。
古い習慣として、新しい材料を使う時、古い材料と同じやり方で使おうとしてしまいます。たとえばレコードは、1940年代にバイナル(ビニール盤)という新しい材料が登場しましたが、従来と同じ形で使用しようとして失敗しました。最終的にバイナルに適した形、従来よりもずっと大きなサイズのレコード盤が開発され、5倍、10倍の録音ができるようになりました。自動車の場合も、最初に開発された車はまるで馬車のようでした。馬の部分がそのまま車輪に置き換わった形をしていました。人々は移動手段として馬車しか知らなかったため、馬車を車に置き換えたのです。
新しい材料を使って良いデザインをつくるには、かつての方法に捉われず、材料からスタートすることが重要なのです。


新たな構造に挑戦するモチベーションはどこにありますか。

まず現場をみて、その場に適した材料、形は何かを考えてスケッチします。人々にそんな構造は不可能だと言われたとしても、それが正しいと思った場合、心の声に従い、情熱をもって取り組めば、実現の方向に進んでいきます。
たとえばリスボン万博ポルトガル館は、支柱なしで80mにおよぶコンクリート屋根を架け渡すことに成功しましたが、当初は多くの人々に不可能と言われました。
この建築物は付近に海があり鋼材が使えなかったため、建築家のデザインにあわせてコンクリートの使用を考えました。課題は多く、支柱なしでは80mというコンクリート屋根を物理的に支えられません。また地震への懸念から壁と屋根との固定した接合は困難でした。雨の問題もあります。一枚の大きな平面の屋根に雨がたまると荷重が大きくなります。

 
リスボン万国博覧会1998ポルトガル館
協働:アルヴァロ・シザ
+エドゥアルド・ソウト・デ・モウラ
提供:東京オペラシティアートギャラリー
そこで私はケーブルを屋根に通すことを考えました。固定が難しい接合部はコンクリートを切り離しました。そして雨対策として、形状を直線ではなく少したゆませて、雨がおちるカーブをつけました。
この考えに対して、コントラクターやエンジニアなどは不可能だと反対しました。しかし私は可能であることを強く主張し、専門のエンジニアに構造計算してもらい実現可能であることがわかりました。説得には2か月もかかりましが、最終的には、美しい建築物ができ上がりました。地震対策として接合部のコンクリートを切り離したことで、まるで円盤が飛んでいるような屋根に仕上がりました。真下に立つと、2000トンものコンクリートの下にいるのですが、接合部から光が差し込み、屋根が浮いているような感覚をおぼえます。雨対策として屋根をたゆませましたが、それが人々にボールの中にいるような不思議な感覚を与えます。
いつも必ず必然から出発するのです。そして最終的には美に落ち着きます。
展覧会の作品「H_edge」も同じです。最低限のアルミニウムを使うことで非常に美しい、まるで空中に飛んでいるような効果を生むことになりました。この形状の間を光が通り抜け、その影は鳥が飛んでいるような印象になりました。


興味を持った方々へメッセージをお願いします。

すべてのものには秩序(パターン)が存在します。
こうやって私が話す時も頭のなかで組み立てて話をしています。何をつくるにしても、何を見るにしても、何を考えるにしても、そこにはある秩序が存在しています。抽象的なかたちであれ、物理的に具現化されたものであれ、人々は様々な秩序に囲まれて暮らしをしているのです。今回、展覧会に来ていただく方には、すべてのものには秩序があるのだということを実際に体験していただきたい。展覧会から一歩外に出た時、展覧会を見る前よりも豊かになった状態で、多様で複雑な秩序に囲まれているということを認識してもらいたいと思います。
自分の体の外にある世界は、すべてに精神が宿っていると考えることが大切です。
すべての物事の奥にはロジック(論理)が存在しています。内部にあって、私達になんらかのメッセージを伝えてくれます。悪いものや混乱するものもあると思いますが、純粋なロジックを材料から、場所から感じとることができるなら、そこに美があるはずです。悪いものが多いこの世の中で、私たちの生活にはもっと多くの美が必要だと思いますし、感覚を研ぎ澄ませ見い出していくことが大切なのです。
 
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