たたけば無限に広がる音の世界
最後に鉄琴に触れたのはいつのことだったろうか。はるか遠い記憶を探れば小学校の音楽の時間、銀色に輝く鉄琴はひときわ人気があった。音板を強くたたけば硬い音、やさしくたたけば凛とした響き、マレット(バチ)の種類をゴム球から毛糸巻に変えれば、びっくりするほど柔らかな音質に変わる。手加減一つで無限に広がる音の世界。たたくという簡単な動作で、音の強弱やリズムが出せる鉄琴は、学校教育用としてお馴染みの楽器である。
ひとくちに鉄琴といっても、いくつかの種類がある。一つはグロッケンシュピール(グロッケン)。音域が高く、音がよく透り、オーケストラや吹奏楽などで使用されている。グロッケンシュピールはドイツ語で「鐘」という意味。歴史が古く、もともとは教会に設置された鐘を示していたが、16世紀頃にはいくつかの鐘を手元で演奏できるようにワイヤーでつなげられた鍵盤が設けられるようになり、これが18世紀になると鐘ではなく棒にかわり、19世紀には鍵盤がなくなり鉄板を直接たたく楽器になったといわれる。
1920年代に米国で開発されたのがビブラフォン。中低音域の音がでる。音板の下に共鳴管が付いており、たたくと音がよく伸びる。さらに共鳴管には、モータで回転するフタが付いており、パイプの口が閉じたり開いたりすることでビブラードが出せる。また音の伸びを調節するダンパーペダルも付いている。浮き上がったような音色がでるので、合奏のソロ演奏で活躍する。
このビブラフォンのビブラート機能を取り去ったものが立奏鉄琴と呼ばれるもので、シンプルな構造のため丈夫で壊れにくく、学校教育用に多用されている。立奏鉄琴の音色は他の楽器とよく調和し、合奏の音の幅を広げる。この他、ボックスフォン(箱型鉄琴)と呼ばれる鉄琴もある。これは共鳴ボックスの上に音板を並べた構造で、教育用に考案されたものだ。
 
立奏鉄琴
教育用に広く用いられている。音板はアルミ製。音板の下の共鳴管は、とくに軽量化が必要なタイプにはアルミニウムが採用されている。
 
 
グロッケン   ボックスフォン
 
 
鉄琴は実はアルミ製?
鉄琴というと、音階を出す音板には当然スチールが使用されていると考えるが、実はアルミニウムを採用したものがけっこう多い。歴史の古いグロッケンの音板はスチール製であるが、比較的新しいビブラフォンをはじめとして、立奏鉄琴、ボックスフォンはアルミ製が多い。
教育用楽器の大手メーカー(株)鈴木楽器製作所にうかがったところ、スチールは硬質で透き通った音が出るが、アルミニウムは音に伸びがあり、強弱に応じて音が変化し演奏表現に優れていたり(とくに 2000 系合金)、丸みのある音色が出たりする(とくに 6000 系合金)。そのため鉄琴の種類に応じて適した材料を選んでいるという。音板は、その裏面を削ることで音の調律が行われる。どの箇所をどれくらい削るかで音程が変わってくる。グロッケンは基音だけを合わせるが、立奏鉄琴やボックスフォンでは倍音調律も行う。きれいな響きと長い余韻を得るためには熟練の技が必要とされる。そのため軽量で加工性に優れるアルミニウムは、音板の加工に適していると同社担当者はいう。
鉄琴だけでなく、教育用楽器にはアルニウムを使用したものがけっこうある。ハーモニカ(ボディ)や鼓笛隊に使用されるドラム(胴部分)にアルミニウムが使用されている。またユニークなものとしてトーンチャイムがある。これはアルミ製異形チューブを使用した楽器で、振るだけで音が出る、ハンドベルのようなものだ。音楽の時間、初めて手にする楽器は、軽くて簡単に演奏できるものが適している。音楽は難しいものではなく、なんといっても楽しいものだからだ。

残念なことに、ピアノやギターなどの楽器に比べ、鉄琴は大人になってから触れる機会は少ない。鉄琴の、あの懐かしい音色から離れて久しいが、鉄琴を用いた楽曲を楽しむことはできる。例えば MJQ (モダン・ジャズ・カルテット)のミルト・ジャクソンは有名なビブラフォン奏者だ。彼によってビブラフォンはジャズのメイン楽器にまで昇格することになった。たたき出される音は丸く温かみがあり、曲のメインをはるインパクトに満ちている。これまでの鉄琴のイメージを覆すような、深みのある音色だ。大人になった今こそ味わいたい鉄琴の世界である。

取材協力:(株)鈴木楽器製作所

   
アルミボディのハーモニカ   トーンチャイムはハンドベルのように、振って音を出す。   マーチングドラムは軽い方がよく、胴にアルミニウムを使用したものもある
 
 
 
 
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