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日中の火照った空気を冷ますように、宵闇があたりの雰囲気を変える頃、浴衣を着た娘らが、下駄の音を鳴らせながら足早に通り過ぎていく。そろそろ祭のクライマックス、打ちあげ花火の始まる時刻である。
響きわたる轟音とともに、花火が夜空に打ちあがる。まあるく大輪の花を咲かせる菊、光が滝のように流れるナイアガラ、つぎつぎと連発し会場を盛り上げるスターマイン。ひとたび、夜空を花火が埋め尽くせば、寝苦しい夜はいっきに心地良いものへと姿を変える。日本の夏に、花火はかかせないものである。
 
まんまると夜空に咲く日本の花
世界一美しいと言われる日本の花火。打ちあげ花火は菊のように球形に開く「割物」と、くす玉のように割れて中から光が放出する「ぽか物」の2種類があるが、特に日本の割物は他国の追随を許さないほど、精巧で華麗なものとなっている。
その割物花火は、まず日本のものは球形であることが特徴的だ。球体の中心の火薬(割火薬という)によって、一つ一つの光を四方八方に飛ばし、どこから見てもまるく、大きく均一に花を咲かせる。一方、アメリカやイタリア、スペイン、オーストラリア等の花火は円筒形で、円筒の片方の蓋が外れて中身が放出されるため、必ずしも球形には展開されない。また光の色が途中で変化するのも日本特有の技術である。これは異なる色を出す火薬が中心に向かって何層も重なっているためで、外国製は一色の火薬のみを機械で固めてつくっており、量産には適しているが、単色の展開しかできない。さらに日本の花火は二重、三重の同心円構造を持つものがあり(芯入花火と呼ばれる)、これは一つの円だけでなく、二重、三重の円を夜空に描き出すことができる。最近ではさらに複雑な構造の花火の製作も進められており、花火師らの探究心は尽きないようだ。

日本と外国製花火の違い

日本製花火の断面図 外国製花火の断面図
 
 
アルミニウムがつくりだす白い閃光
花火の美しさを成す要素は、光、色、音、煙、形状があるが、なかでも色は、人々を魅了する重要な要素となっている。花火は一般的に2種類の火薬が入っており、一つは上空で花火玉を割るための火薬。もう一つは丸い粒状の「星」と呼ばれる火薬で、花火の一つ一つの光となって美しい色を放つ役割をする。星の色は、火薬類の配合、組み合わせによってさまざまな色を出すことができる。一般的に炎の色といえば、赤色を思い浮かべるかもしれないが、金属を燃やした時はその種類によって炎の色が異なり、この現象を炎色反応と呼ぶ。花火はこの炎色反応を利用しており、赤は炭酸ストロンチウム、緑は硝酸バリウム、黄はシュウ酸ソーダ、炭酸カルシウム、青は酸化銅、そして強い白(銀)を出すためにアルミニウムが使用されている。例えば、滝のように横に広がっていく「ナイアガラ」のあの白い閃光はアルミニウムによってつくられている。日本の花火は、明治時代にアルミニウムや塩素酸カリウムやストロンチウム等が輸入されるようになって、ぐっと明るく、色彩豊かなものになったと言われる。それまでは橙色の強弱でしか表現できなかったのである。またアルミニウムは轟く爆音を発するためにも使用されている。

色と形の変化に富む、美しい日本の花火。響きわたる轟音とともに、明るい閃光が瞼に焼きつく。無心で見とれてしまう華やかさ。日本人で良かったと感じる瞬間である。ぱっと煌き、瞬く間に消える。その花は日本人の美意識であり、花火師達の知恵の結晶である。
 
 
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