新 こんなところにアルミ・銅

美味しい風味をつくりだす銅の「ポットスチル」

ポットスチルに欠かせない銅

最近、こだわりのビールを求める人々を中心に人気が高まっている「クラフトビール」。製法などにこだわった小規模醸造のビールのことで、「手工芸品」に例えて「クラフト」ビールと呼ばれている。そんなクラフトビールの流れが今、ウイスキーにもやってきている。小規模蒸溜所で造られる国産ウイスキーが人気を博しているのである。最近では自社でポットスチル(蒸溜器)を構える蒸溜所も各地で誕生している。ポットスチルや熟成環境の違いが多彩な味わいを生み出すウイスキー造り。クラフト蒸溜所が個性を競う。
ウイスキーのなかでもモルトウイスキーは麦芽を原料とし、ポットスチル(単式蒸留器)で蒸溜する。蒸溜方法はシンプルで、蒸溜原液をポットスチルの中で沸騰させ、蒸気を冷やして凝縮させる。シンプルな方法だからこそ、ポットスチルの形によって味わいは大きく変化する。スリムなものやずんぐりしたもの、大きなものや小さなものなどさまざまな形がある。一般的に、ヘッドの背が高くて太いほど、軽やかな味わいになり、ヘッドが短く細いほど重厚な味わいになると言われている。
この味わいの決め手となるポットスチルは銅でできている。ポットスチルは、長い時間をかけて煮沸するため、熱伝導率が高い銅が適しており、また銅は加工しやすく耐久性も高い。さらに特筆すべきは、銅を使うことで風味がよくなることが知られている。ウイスキーの発酵工程で硫黄化合物が生成されるが、銅は硫黄と結びつきやすいため、不快な香気成分である硫黄化合物を取り除いてくれる。また硫黄化合物は熟成の妨げともなるため、二つの効果で銅はポットスチルに欠かせない材料なのである。
 

ポットスチルにはさまざまな形のものがある。

錬金術師が生み出した「蒸溜器」

このポットスチル(蒸溜器)の歴史は古く、メソポタミアの遺跡で紀元前3500年頃の香料用の蒸溜器が発見されている。蒸溜器は最初、香料の抽出用に使用され、それが後に蒸溜酒に応用された。蒸溜酒については紀元前750年に古代アビニシアでビールのような醸造酒を蒸溜したと考えられている。蒸溜技術が本格的に発達したのは2世紀頃、これに大きく関わったのが「錬金術師」である。錬金術師は金属の精錬にとどまらず、化学の礎を築き、哲学や医学にも通じ、科学の先駆者のような存在であった。錬金術師は物質分離法として蒸溜を活用することにより、蒸溜技術が発達した。その後イスラム錬金術によって蒸溜技術はさらに発展し、さまざまな蒸溜器が考案された。蒸溜器はアラビア語で「アランビック」と呼ばれ、その後、イスラム文化の拡散、イスラム商人の往来により蒸溜器は東から西へ伝わった。錬金術師の技術をもとに作られたアランビックは、当初香料抽出と化学成分分離が主であったが、蒸発と冷却による凝縮で濃度を上げることは酒の蒸溜にも応用でき、アランビックを用いて世界各地で蒸溜酒がつくられた。アランビックを用いて製造された蒸溜酒の名前も、中近東や南洋諸島のヤシの蒸溜酒は「アラック」、中国の焼酎は「阿刺吉酒(あらきしゅ)」と、アランビックに似たような名前で呼ばれた。アランビックは現在に至るまでその仕組みはさほど変わっていない。古くは錬金術師が行った手法を用いて、今も美味しい酒は生み出されているのである。
 

蒸溜の仕組み

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